ベテル教会の洗礼式に見る新使徒運動の「実」

ベテル教会のバプテスマ

米国カリフォルニア州のレディングにあるベテル教会は、おそらく新使徒運動(NAR)の中で今最も影響力のある教会です。2023年2月の時点でベテル教会のInstgramアカウントには約80万人のフォロワーがおり、その影響力の大きさがわかります。また、ベテル教会がプロデュースする音楽レーベル「Jesus Culture」のInstgramアカウントには約135万人、「Bethel Music」には約180万人のフォロワーがいて、音楽を通して、特に若者に大きな影響を与えています。近年では、日本でもベテル教会の神学校(Bethel School of Supernatural Ministry:BSSM)を出た卒業生が伝道や牧会に従事し、多くの人を「イエスを信じる信仰」に導いていると報道されています

ただ、ベテル教会と新使徒運動(NAR)の教えには問題が多く、このサイトでも過去にも何度か指摘してきました。そのため、ベテル教会や関連団体の働きによって「イエスを信じると告白したり、洗礼を受けたりする人が毎月起こされている」という報告を聞いても、残念ながら素直に喜べないのです。その理由は、以下に紹介するベテル教会で行われたバプテスマ(洗礼)の様子を見ることでも理解していただけると思います。

MEMO
ベテル教会の洗礼の様子は、繁栄の神学や新使徒運動の教えに詳しいジャスティン・ピーターズ(Justin Peters)氏の以下の動画を使用しています。
“Wonder If Bethel Is A False Church? Wonder No More” Justin Peters Ministries (https://www.youtube.com/watch?v=VvHK2MjPZCk)

以下に紹介する動画では、ベテル教会で洗礼を受ける人々が次々にステージに上り、洗礼を受ける理由を語っています。動画をクリックすると、該当する箇所から再生が始まります(それぞれ1分以内の短い会話です)。

最初の人は、牧師と次のようなやり取りをしています。

牧師:この教会のスタッフであることの大きな特権の一つは、人々に洗礼を授けることができることです。今夜は、これからいくつか質問をしてから、その後で洗礼を始めます。質問は二つです。一つはあなたの名前、もう一つは今夜洗礼を受ける理由です。では、あなたから始めましょう。あなたの名前と、なぜ今夜洗礼を受けたいのかを聞かせてください。
女性: 私の名前はミカエラです。
牧師さん:なぜ洗礼を受けようと思ったのですか?
女性:イエス様が王だからです。私はイエス様をとても愛しています。私は神の子です。

Pastor: One of the great privileges being on staff here is that we get to baptize people. I’m going to ask a couple of questions and then we’re going to go ahead and begin to baptize people tonight. Two of the questions are these. One is your name and the second is why you’re being baptized tonight. So let’s start with you. What was your name and why are you wanting to be baptized tonight?
Girl: My name’s Michaela.
Pastor: And why are you wanting to be baptized?
Girl: Because Jesus is king! I love him so much. I’m a child of God.

このミカエラという女性は、洗礼を受ける理由を「イエス様が王だからです(Because Jesus is king!)」と答えています。イエス・キリストの十字架にも自分の罪にも触れていません。つまり、洗礼を受ける理由として、福音を信じたからとは語っていません。

MEMO
聖書の福音については、「聖書の語る『福音』とは」を参照してください。

また、ミカエラは少し酔ったような様子を見せています。これは「聖霊に酔う(drunken in the Spirit)」というNAR系の教会でよく見る光景です。聖霊に満たされると酔ったようになるというのですが、ガラテヤ5:22~23の「御霊の実は…自制です」という言葉からすると、奇妙な現象です。薬物やアルコールを摂取しているようには見えても、聖霊に満たされているようには見えません。

次に洗礼を受けた女性も同様で、次のように話しています。

牧師:あなたが求めているのは何ですか? お名前と、今夜洗礼を受ける理由を教えてください。
女性:私の名前はカミーユです。今夜受ける洗礼が私の人生に良い影響を与え、未来の可能性を開き、神との関係を強めてくれることを望んでいます。
牧師: アーメンです。カミーユさん、すばらしいです。ありがとうございます。

Pastor: Friend, why’d you come for? What was your name and tell us why you’re being baptized tonight.
Girl: My name is Camille. And I hope that tonight’s baptism will cause some positive influences in my life, positive things in my life, future opportunities and strengthen my relationship with God.
Pastor: Amen. Camille, that’s amazing. Thank you.

このカミーユという女性も、洗礼を受けることの意味を理解しているとは思えません。洗礼を受ける理由として「私の人生に良い影響を与え、未来の可能性を開くため」と答えています。カミーユも、イエスの十字架や罪について一切触れていません。この答えを聞いて、牧師が「アーメン」と言っている時点で、この教会は教会としての機能を果たしていないと言えます。

ジャスティン・ピーターズは、この「証し」を聞いて次のようにコメントしています。

皆さん、これは人が洗礼を受ける理由にはなりません。まったく理由になりません。もう一度言いますが、彼女は自分が何をしているのかまったくわかっていません。洗礼というものをまったく理解していません。洗礼を理解してないなら、福音も理解していません。これは証しではありません。洗礼は、自分の人生に何か良いことが起こることを期待して受けるものではありません。しかし、クリス・クルーズとベテル教会のスタッフにとっては、その「証し」で十分だったのです。実際に、クルーズはそれはすごいと言い、皆が拍手をして、彼女に洗礼を授けたのです。

Dear friends, that is not why one gets baptized, not even remotely. Again, she has no idea what she’s doing. No understanding at all of baptism. And if she doesn’t have an understanding of baptism, she’s got no understanding of the Gospel. That’s not a testimony. You don’t get baptized because you hope it will cause some positive things in your life. But that “testimony” was enough for Chris Cruz and the staff at Bethel Church. In fact, he said that’s awesome and everybody applauded and they baptized her.

MEMO
ピーターズは、動画中の牧師を「クリス・クルーズ(Chris Cruz)」と呼んでいますが、動画の概要欄では「ジョエル・パワー(Joel Power)」の間違いと訂正されています。

3人目の女性も同様です。

牧師:お名前と、今夜洗礼を受ける理由を教えてください。
女性:私の名前はレイシーです。私がイエス様をどれだけ愛しているかを示したいからです。
牧師:いいですね!

Pastor: Friend, why don’t you tell us your name and why being baptized tonight?
Lady: My name is Lacey and because I want to show how much I love Jesus.
Pastor: Come on, yes!

このレイシーという女性も、最初の女性と同じで酔ったような様子を見せています。また、洗礼を受ける理由も同様で、福音を理解しているようには思えません。

次の女性は、洗礼を受ける理由をもう少し詳細に語っています。

牧師:今日はなぜここに来たのですか? お名前と、今夜洗礼を受ける理由を教えてください。
女性:こんにちは、私はクリスタルです。私は、神様が私を動物の王国の戦士となるよう召してくださっていることだけは知っています。そして、世界中の動物を守るために、私は天使の軍団を指揮することになっています。これは神様なしにできることではないとわかっているのです。
牧師:さあ! クリスタルに拍手喝采を送りましょう。なんとすばらしいことでしょうか。

Pastor: Friend, why’d you come over tell us your name and tell us why you’re being baptized tonight?
Girl: Hi, I’m Crystal and I just know that God is calling me to be a warrior for His Animal Kingdom. And that I’m to lead an army of angels to protect animals across the world. And I just know I can’t do it without God.
Pastor: Come on! Give Crystal a round of applause. That’s amazing, sweet.

洗礼を受ける理由として「動物の王国の戦士になる」と語っている人に対して、牧師が「すばらしい」と言って拍手喝采を送り、洗礼を授けています。何のための洗礼でしょうか。「天の御国の戦士」になるのではなく、「動物の王国の戦士」になるためにクリスチャンになるというのは聞いたことがありません。今まで筆者が聞いた中で最も奇妙な「証し」です。この理由で洗礼を授ける牧師は、牧師と呼べるのでしょうか。この洗礼式には、主任牧師のビル・ジョンソンや、「預言者」と呼ばれるクリス・バロットンも出席しているはずです。当然教会のトップに立つこの二人も同じです。この教会は、教会という看板を掲げてはいても、もはや教会の役割を果たしていません。

ジャスティン・ピーターズの動画には、そのほかにも何人もの幼い子どもが「イエス様を愛しているから」と言って洗礼を受ける様子が収録されています。当然、子どもたちの口からもイエスの十字架や罪の話は出てきません。これは、この教会では聖書の福音が語られていないこと、福音を信じていなくても洗礼を授けていることを示しています。その結果生まれるのは、「偽の回心者(false converts)」です。

ベテル教会が語っているのは「別の福音」であり、「別のイエス」です。ベテル教会系の働き人から「イエスを信じると告白したり、洗礼を受けたりする人が毎月起こされている」と報告されても喜べないのはそのためです。新使徒運動(NAR)で最も影響力があると言われるベテル教会の実態がこれですから、NAR系の他の教会の内情も推して知るべしでしょう。NARの父と呼ばれるC・ピーワー・ワグナーは、2004年出版の著作で、世界で3億6900万人もの人がNAR関連の教会に集っていると語っています。それ以降も、NARの教勢は増していますので、これ以上の数になっていると思われます。

新使徒運動(NAR)系教会の特徴の一つは、福音が語られないことです。人の罪のためにイエス・キリストが十字架上で死んでくださったという福音ではなく、信者に与えられた力で奇跡やいやしを行い、リバイバルを起こして地上に神の国をもたらすというストーリーが強調されるためです。この状況は、2テモテ4:3~4の次の聖句を思い出させます。

 3  というのは、人々が健全な教えに耐えられなくなり、耳に心地よい話を聞こうと、自分の好みにしたがって自分たちのために教師を寄せ集め、 4  真理から耳を背け、作り話にそれて行くような時代になるからです。

この聖句が言う時代が今であるという感覚は、現実からずれていないと思います。このようなベテル教会の「実」は、ビル・ジョンソンらの教えがもたらした結果です。ビル・ジョンソンは次のように語っています。

初代教会が持っていた聖霊よりも、彼らが持っていなかった書物(訳注:聖書)を大事にしている時点で、初代教会と同じ実を期待するのは難しい。「父と子と聖書」とは言われていないのだ。
― “Bill Johnson – Friendship with God” (https://www.youtube.com/watch?v=P4RZ_ctiwlE)

It’s difficult to expect the same fruit of the early church when we value a book they didn’t have more than the Holy Spirit they did have. It’s not Father, Son and Holy Bible.

ビル・ジョンソンは、この言葉からうかがい知れるように、聖霊による奇跡やいやしを強調し、聖書を軽視しています。その結果が、ここで紹介した「回心者」です。このような結果に対する処方箋は、すでに聖書で述べられています。上記で引用した2テモテ4:3~4の直前にある2テモテ4:2では、次のように語られています。

2  みことばを宣べ伝えなさい。時が良くても悪くてもしっかりやりなさい。忍耐の限りを尽くし、絶えず教えながら、責め、戒め、また勧めなさい。

みことばから離れるなら、初代教会のような実は望めません。新約聖書に記されたみことばは、初代教会の使徒と預言者が書き記した教会の土台だからです(エペソ2:20)。現代の使徒という偽の土台に立つ教会は、ベテル教会のように福音から離れ、実際には救われていない人々で満たされる「教会」になっていくでしょう。

MEMO
現代の使徒と教会の土台について、詳しくは「現代の使徒運動が抱える問題点(2)『現代の使徒は教会を分裂させる』」を参照してください。

参考資料

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