マルクス主義はキリスト教と両立するか(1)左傾化する世界

批判的人種理論

批判的人種理論を紹介した記事「米国を揺るがす『批判的人種理論』とは(2)定義」では、批判的人種理論は一種のマルクス主義革命思想であると結論付けました。トランプ大統領が批判的人種理論を批判した理由も、「アメリカは邪悪な人種差別国家だと主張するマルクス主義の教義」というものでした。つまり、批判的人種理論で大きな問題となっているのは、それがマルクス主義の思想であるという点です。

マルクス主義とは、カール・マルクスフリードリヒ・エンゲルスが展開した思想をベースとした社会主義思想で、共産主義社会を目指したものです。そのため、マルクス主義は共産主義と言い換えることもできます。共産主義とは、私有財産を否定し、生産手段を共有することで平等な社会をつくるという思想です。

多くの日本人にとって、共産主義はソビエト連邦とベルリンの壁の崩壊によって終わった過去の思想です。しかし、現在の世界の潮流を見ると、そうでもないということがわかります。

共産主義に傾く世界

世界経済フォーラム予測毎年、各国の要人を含め、世界の政界、経済界、学会のリーダーを集めて開催される「ダボス会議」を主催する団体「世界経済フォーラム(World Economic Forum)」は、2030年までに実現する予測の一つとして次のように語っています。1

あなたは何も所有しない。
それでもあなたは幸せ。

You’ll own nothing.
And you’ll be happy

「何も所有しない」という言葉から、共産主義社会の到来を予測していることがわかります。ダボス会議は、安倍首相、トランプ大統領、習近平総書記なども参加したことがある世界のトップが集まる会議として知られており、その主催者である世界経済フォーラムの発言として、良くも悪くも無視できないものです。

また、米国の世論調査会社ラスムッセン・レポートによると、米国の若い世代(18~39歳)では資本主義への落胆が広がり、資本主義を支持する人と社会主義を支持する人の数が拮抗していると報告されています。この報告によると、2010年には資本主義支持66%、社会主義支持48%という数字だったのが、2019年には資本主義支持51%、社会主義支持49%とほぼ同じ支持率となっています。2

フランシス法王共産主義への傾倒は、一般社会だけでなく、キリスト教会にも広がっています。たとえば、ローマカトリック教会のフランシスコ法王について、米国のシンクタンク「ヘリテージ財団」のチーフ・エコノミストで、みずからもカトリック教徒であるスティーブン・ムーアは次のように語っています。

ローマ法王は、明らかにマルクス主義的な思想に傾いていると思います。法王が資本主義や自由経済に対して声高に疑問を投げかけていることは疑う余地がありません。……これは非常に厄介なことです。

I think this is a Pope who clearly has some Marxist leanings. It’s unquestionable that he has a very vocal scepticism (about) capitalism and free enterprise and… I find that to be very troubling.

実際に、フランシス法王自身もマルクス主義について次のように語っています。

インタビュアー:法王は平等が支配する社会を渇望しておられるのですね。ご存知のように、これはマルクス主義の社会主義、共産主義のプログラムです。法王はマルクス主義的な社会の実現を考えておられるのでしょうか?

フランシス法王:これまで何度も言われてきたことですが、私はいつも、クリスチャンのように考えている人がいるとすれば、それは共産主義者だと答えてきました。3

Interviewer: So you yearn for a society where equality dominates. This, as you know, is the programme of Marxist socialism and then of communism. Are you therefore thinking of a Marxist type of society?
Pope Francis: It has been said many times and my response has always been that, if anything, it is the communists who think like Christians.

フランシス法王は南米の出身で、1960年代後半に南米で生まれ、ローマ・カトリック教会を中心に支持されている運動「解放の神学」に傾倒していると言われています。解放の神学は、キリスト教信仰を貧しい人々と被抑圧者の視点から解釈しようしたもので、マルクス主義の影響を受けた神学です4。このように、マルクス主義の影響はローマ・カトリック教会にも深く浸透しています。

MEMO
解放の神学をベースにした黒人神学、黒人解放神学は、批判的人種理論の神学版とでもいうべきものです。解放の神学については別の記事で解説したいと思います。

このように、世界の各方面で、マルクス主義に傾倒する人々が増えつつある傾向を見て取ることができます。

マルクス主義に直面する教会

プロテスタント教会で、批判的人種理論に関する論争の中心になっているのもマルクス主義です。「米国を揺るがす『批判的人種理論』とは(1)イントロダクション」では、南部バプテスト連盟で批判的人種理論をめぐる内部対立があることをお伝えしましたが、この対立もマルクス主義が論争の的になっています。

南部バプテスト連盟の内部対立のきっかけは、批判的人種理論が加盟教会や神学校の一部に浸透していることを危惧した有志の牧師が、年に一度開催される大会で批判的人種理論を非難する決議案を採択するために原案を提出したことでした。この決議案を起草したのは、南部バプテスト連盟に属する教会の牧師、スティーブン・ファインシュタインで、次のように批判的人種理論を批判しています5

批判的人種理論とインターセクショナリティについて

批判的人種理論とインターセクショナリティは、マルクス主義の理論と分類に由来する非聖書的な前提に基づいており、したがって、クリスチャンを結びつける本来の中心である聖書に本質的に反している

On Critical Race Theory and Intersectionality
WHEREAS, critical race theory and intersectionality are founded upon unbiblical presuppositions descended from Marxist theories and categories, and therefore are inherently opposed to the Scriptures as the true center of Christian union;

この決議案では、批判的人種理論をマルクス主義をベースにした教えであるとし、信仰の中心であるべき聖書に反していると批判しています。

しかし、この決議案は、決議委員会で審議された結果、骨抜きにされ、反対に批判的人種理論の持つ役割を肯定する内容に書き換えられて採択されました。以下は、2019年の南部バプテスト連盟大会で実際に採択された決議案の抜粋です6

批判的人種理論とは、人種が社会の中でどのように機能してきたか、また機能し続けているかを説明する一連の分析ツールである。インターセクショナリティとは、個人のさまざまな特性がどのように重なり合い、人の体験に影響を与えるかを研究するものである。
(中略)
聖書の権威と十全性を支持する福音派の学者は、批判的人種理論やインターセクショナリティから選択的に知見を得て、多面的な社会的力学を理解するために用いている。

WHEREAS, Critical race theory is a set of analytical tools that explain how race has and continues to function in society, and intersectionality is the study of how different personal characteristics overlap and inform one’s experience; and

WHEREAS, Evangelical scholars who affirm the authority and sufficiency of Scripture have employed selective insights from critical race theory and intersectionality to understand multifaceted social dynamics;

この最終的な決議案では、批判的人種理論がマルクス主義に由来し、聖書に本質的に反しているという原案の文言がすべて削除されています。その代わりに、批判的人種理論を人種問題を分析するツールとして認め、インターセクショナリティ(記事「米国を揺るがす『批判的人種理論』とは(3)インターセクショナリティ」参照)とともに、多様性のある社会を理解する上で役立つものとして評価しています。

最終的な決議案では、「マルクス主義」に言及している原案の文言をすべて削除しています。この点を見るだけでも、キリスト教界ではマルクス主義はキリスト教の信仰と相反するものであるという認識があり、マルクス主義の影響を認めることが教会にとってどれほど大きな意味を持っているかがわかります。

そこで、このシリーズの記事では、マルクス主義とキリスト教は両立するかというテーマについて、具体的に考察していきたいと思います。

この記事を書いた人:佐野剛史

  1. World Economic Forum, “8 predictions for the world in 2030” (https://www.facebook.com/worldeconomicforum/videos/8-predictions-for-the-world-in-2030/10153920524981479/)

  2. Lydia Saad, “Socialism as Popular as Capitalism Among Young Adults in U.S.” (https://news.gallup.com/poll/268766/socialism-popular-capitalism-among-young-adults.aspx)

  3. Steve Skojec, ‘Pope: “It is the Communists Who Think Like Christians”’ (https://onepeterfive.com/pope-communists-think-like-christians/)

  4. 聖書・キリスト教辞典「《じっくり解説》解放の神学とは?」(https://www.wordoflife.jp/bible-994/)。

  5. Stephen Feinstein, “SBC19 Resolution #9 on Critical Race Theory and Intersectionality” (https://sovereignway.blogspot.com/2019/06/sbc19-resolution-9-on-critical-race.html)

  6. https://pastorjonbeck.files.wordpress.com/2019/06/sbc-resolution-9-critical-race-theory.pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。